Profile

手彫り職人紹介

手彫り職人紹介

曲線一本の“色気”を求めて。

デザイナーインタビュー
手彫り職人/WAIOLIオーナー 橋爪隆宏

WAIOLIのハワイアンジュエリーの特徴は、和彫りの基礎技術をベースにした、繊維な彫りのライン。そのすべてを手がけるのが、WAIOLIのオーナーであり、手彫り職人の橋爪隆宏さんです。ハワイアンジュエリーの中でも、彫り込みの深さと切削面の輝きが格段に美しい“ディープカット”を施せるのは、現在日本では彼だけ。日本屈指のハワイアンジュエリー職人である橋爪さんに、ジュエリーにかける想いを聞きました。(聞き手・佐藤 渉)

Profile

橋爪隆宏(はしづめ・たかひろ)

1987年1月26日、東京都台東区生まれ。実家は国指定有形文化財の銭湯「燕湯」。
高校在学中にダブルスクールで日本宝飾クラフト学院にてジュエリー制作を学び、プロ養成コースを修了。
ハワイアンジュエリーの魅力に目覚め、独学で学びつつ、2012年に「Hawaiian Jewelry WAIOLI」を実家の銭湯の2階部分にオープン。
翌年には本場ハワイで、ディープカットの技術を編み出したとされる現地トップブランドの技術者から直々にディープカットを学び、その技術を習得。
現在、日本で唯一本場直伝のディープカットを施せる、エングレーバー(手彫り職人)。

彫りの良し悪しは、曲線を見ればわかる

御徒町に育ち、アメ横が近かったので、昔からシルバーアクセサリーに興味がありました。 でも、生まれ持った職人気質からか、市販のものを買うのはすぐに飽きちゃって、自分で作りたくなったんです。 高校一年生の夏に、アクセサリー制作の体験をして以来、すっかりハマってしまって。 高校に通いながら、日本宝飾クラフト学院でジュエリー制作の講座にも通って、高校卒業後もそのままプロ養成コースに入って勉強しました。

きっと先生に恵まれたんでしょうね。 手彫りとロストワックス(鋳造法)という指輪作りの基礎を、高い技術を持った先生方からみっちり教わりました。 先生が作例として銅板に彫った線を、刃を当ててなぞり、刃の角度や彫りの深さを真似て彫ってみる。 次に微妙な変化をつけながら、線のニュアンスがどう変わっていくかを繰り返し実験する。 そんな風にして、技術を自分のものにしていきました。 何時間もぶっ続けで作業し、家に帰ってからも夢中で彫って、気付いたら朝だったなんてことも、しょっちゅうありましたね。

手彫り職人の巧さは、曲線一本見ればわかります。 はじめから最後まで、のっぺりと変化のない曲線ではつまらない。 彫り始めは細く繊細で、真ん中は大胆に太く。 「女性のくびれのように不自然なところがまったくない、艶っぽく柔らかな曲線」こそが理想だと、先生はおっしゃっていました。 僕も、そんな曲線を日々追い求めています。

本場の技術者から直に学んだ、
ハワイアンジュエリーの真髄

ハワイアンジュエリーは、モチーフがさまざまあって曲線も多く、高い技術がなければ良い物が作れないため、職人としてやりがいがあります。 でもそれだけではありません。僕がハワイアンジュエリーに強く惹かれたのは、モチーフを使って、身に付ける人がそこに想いを込められることです。

日本の和彫りを基礎に、ハワイアンジュエリーやイタリアのインチジオーネ、アメリカ本土のエングレービングといった、さまざまな彫りの技法を学び、そこに自分らしさを表現できるようになって、工房を開いたのが2012年のことです。 技術力には自信がありましたが、ハワイに行ったことがないままハワイアンジュエリーの看板を掲げることに、どこか居心地の悪さを感じていました。

一度思いついたらとことん突き詰める性格の僕は、2013年に、一時的に工房を閉めてハワイへ行きました。 前から懇意にしていた日本人の先生と、彼の師匠でありディープカットの考案者であるハワイアンジュエリーの第一人者から、ハワイアンジュエリーの真髄を学ぶ機会に恵まれたんです。 そこで、こんな逸話を知りました。

ハワイアンジュエリーの始まりは、ハワイ王国最後の女王である、リリウオカラニ女王が身に着けていたブレスレットにあると言われています。 そのブレスレットには、国や人々を正しい方向に導くコンパスや、天に守護されることなどを表す8つのモチーフが彫られ、それらを繋ぐように「HoomanaoMau」と書かれていました。 「HoomanaoMau」とは、「いつも覚えている」という意味。 女王は、国を治め国民を正しく導いていく自分の使命を忘れないようにと願いを込めて、このブレスレットをいつも身に付けていました。 モチーフ一つひとつに意味があるだけでなく、それらを組み合わせて込めた想いと、いつも共にあることができる。 ハワイアンジュエリーには、そんな素晴らしさがあるのです。

自分の技術力で、誰かを笑顔にできる喜び

エングレーバー(手彫り職人)になって以来、毎日ジュエリーと向き合う日々を送っていますが、まだまだ新しい発見があります。 先日は、こんなことがありました。うちで婚約指輪を作っていただいたカップルが、その後しばらくしてから、結婚指輪を作ってほしいと再度訪ねてきてくれたんです。 彼女の指には、かつて僕がデザインし、心を込めて彫ったハワイアンジュエリーが輝いていました。 自分でも愛着のあるそのジュエリーをはめて、幸せそうに微笑んでいるお二人を見たとき、ふと、これまで感じたことのないような喜びが込み上げてきました。

学生時代は、自分の考えたデザインをいかに上手に具現化できるかが、僕のモチベーションの源でした。 でも、今は少し違います。ジュエリーは、人生の中でも特別な瞬間にこそ、オーダーするもの。 自分が身につけた技術によって、誰かの幸せや、誰かの笑顔に貢献できる。 それが、職人としての僕のこの上ない幸せであり、そのために心を込めて彫り進めていくのが、これからも自分の使命だと考えています。